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映像制作会社の同僚の関口から主人公への、分かれの言葉
「じゃ、また」しんみりしないようにつとめて軽く言ったのに、「あんなにたくさんの人間と会ってきたのに、誰とも一緒にいることができなかったなあ」大きく煙を吐いた後に、関口が空気を全然読まないロマンチックな口調で話し始めた。
「ボクたちはみんな大人になれなかった」より
「あのさ、知ってる?国会図書館には日本の出版物が全部あるんだ。文芸誌から漫画にポルノ雑誌から全部」「お前、本なんて読まねえだろ」ボクのツッコミをスルーして関口は続ける。「俺たちがあと50年いきるとして、1日に1冊ずつ読んだところで読み切れない量の出版物がすでにもう保存されてるんだ、そして一方では世界の人口は70億を超えて今日も増え続けてる。俺たちがあと50年生きるとして、人類ひとりひとりに挨拶する時間も残ってない。今日会えたことは奇跡だと思わない?」
そうだ、関口がこういう奴だったから、ボクは今日まで同じ場所に居続けることができたんだ。
「ボクたちはみんな大人になれなかった」感想・あらすじ
小学生、専門学生、エクレア工場でのバイト、今の仕事を始めてから、仕事が軌道にのるまで、という主人公の時期。
エクレア工場で出会ったかおりとのエピソード、仕事が軌道に乗り始めてから出会ったスーとのエピソード、エクレア工場の先輩だった七瀬とのゴールデン街での再会、仕事仲間だった関口とのエピソード。
全てが分かれのエピソードであり、それらが読んでいる人達の生活の中の些細な記憶を優しく刺激してくる。
小説の時代背景や業界を描くための小道具として、小沢健二やウルフルズ、大槻ケンヂ、中島らもとか、バックトゥザフューチャーが出てきたりするので、30代後半の男性には特に共感しやすい作品だと思います。
作品の中で、その作品がなぜ出てきて、どんな作品だったかも言及されているので、これらの作品を知らなくても楽しめます。